医学部医学科ではどのような講義が行われていて、医学生はどのように医師になるのかの流れを調査したので、できる限りわかりやすく解説します。
「医学科」は医学部の中に含まれる3つの学科の中の1つ
「医学部」には3つの学科が含まれる
- 「医学科」…医師の国家資格を取得するための学科。6年制。
- 「看護学科」…看護師や保健師を育成するための学科。4年制。
- 「保健学科」…放射線技師、臨床検査師、作業・理学療法士を育成するための学科。4年制。
まず、医学科は入試合格の時点で超難しい
私立大学医学部医学科でも十分に難しく、しかも学費が卒業までに4000万円近くかかる。
国立大学医学部医学科は悪夢じみた難易度の高さ。定員が100名前後という少ない椅子に、全国のそれぞれ県下最高の進学校に在籍する上位者達や、東大・京大・慶応・早稲田のような名門大学の再受験組が押し寄せてくるので、合格はあまりにも難しい。
センター試験の結果を使って受けられる国立大学は1つの大学のみなので、そのプレッシャーもかなりキツい。一般には東大に合格できる学力・偏差値が無いと合格は無理、と言われる。
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国立大学医学部を目指して多浪したり、再受験を目指して不合格が続き、人生が破壊される人も多い。
医学科の年次別スケジュール
1年次
他の学部と同じように「一般教養」を学びます。
一般教養の中身の科目は「物理」「生物」「統計」などです。
また、上記の一般教養に加えて、「医学史」「医学心理学」といった医学に関する講義も受けます。
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2年次
「基礎医学」の講義が始まります。
基礎医学の科目は「生理」「薬理」「免疫」「微生物」「分子生物学」など、たくさんあり、これらのほぼすべてが必修科目なので、単位を落とすことは許されません。
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人体の解剖実習が始まり、それぞれの解剖実習には課題として実習レポートの提出が求められるので、基礎医学の座学と並行させるのは非常に大変です。
3年次
「臨床医学」の講義が始まります。
上記の基礎医学が医学にまつわる知識を学ぶことに対し、臨床医学は患者の治療を目的にした実用的な学問です。
臨床医学の科目は「血液」「皮膚」「消化器」「呼吸器」「循環器」など、多岐にわたります。これらの科目も必修科目です。
4年次
3年次に引き続き、「臨床医学」の残りを学習します。
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そして、全医学生が共通して受験する「CBT」と「OSCE」という2つの大きなテストがあり、これに合格できないと5年次へと進級できません。
CBTの試験範囲は、これまでに学んだ基礎医学と臨床医学の全て。
OSCEは「針の縫い方」「聴診器の当て方」といった実技試験。
5年次
病院へと移り、実際に1~2人の患者を担当して、医者としての仕事を実習します。
6年次
病院実習は6年次の夏頃まで続きます。
6年次の最後に「医師国家試験」があり、6年次の夏以降は医師国家試験対策のために勉強に明け暮れる日々が続きます。
医学科の講義の特徴
「暗記量が膨大すぎる、医学科の勉強」
人体の構造や部位名、病気の名称と原因と治療方法など、膨大な量を覚える必要があるのが医学科。
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1つの講義内容につき、「生物」や「物理」や「化学」のような高校理科の1科目くらいの量を覚えなければならず、そんな講義を毎期大量に受けなければならない。
この異常な暗記量を前に、勉強のエリート達の医学生でさえ参ってしまう事が多い。特に、初見で聞き慣れない基礎知識を大量に叩き込まれる期間が辛いらしい。
特徴として講義の流れが異常に速く、一般的な大学生からすれば講義とはとうてい言えないような説明の軽さでどんどん先へ進んでしまう。これは「勉強は君たち自身でやっておいて。講義は、一応講義をした、って事実を作るためだよ」という教授側の事情による。
「解剖実習で心を折られる医学生もちらほら」
献体された人体を解剖する実習で、中身のグロさやホルマリンの悪臭に耐えきれずに退学する医学生も、決して珍しくはない。
教科書相手に得意な勉強だけやっていれば高評価されてきたこれまでの人生とは一線を画す、解剖という生々しい課題は、医学生を最初に叩きのめす洗礼といえるだろう。
「専門の医学書が高額」
講義用や自主勉強のために必要になってくる医学書は、価格が1冊1万円を超えることがざらにある。
購入が必要な局面はちょくちょく出てくるので、Amazonのマーケットプレイスで、中古で安価の医学書を入手するのが近年の医学生のトレンド。
「医学科は留年判定が異常に厳しい」
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医学部医学科は、「必修科目」の単位を1つでも落としてしまうと、その時点で留年となってしまう。
他の学部のように、たとえいくつか必修科目の単位を落としたとしても、進級して来年また講義と試験を受ければ良い、という余裕のある状況とは全く違っている。
1年次の教養課程が終わり、2年次になると、必修科目の「解剖学」「生理学」といった基礎医学の講義がスタートし、これらの講義で初めて聞く単語を大量に覚えなければならないため、2年次の時点ですでに留年をしてしまう医学生が出始める。
医学科の場合、同じ学年で2留してしまう(たとえば、2年次ですでに1留していて、その後2年次でもう一度留年が決定してしまう)と、その時点で退学処分を受けるので、大学にいられなくなってしまう。
同期や先輩とのコネ・情報ネットワークを駆使して、過去問やテスト問題傾向情報を上手く入手できるかは、医学科では本当に死活問題となる。
これだけの勉強量と並行して、部活動もほぼ必須
これだけの膨大な勉強量と、あまりに厳しい期末試験と並行して、部活(しかも陸上やボクシングのような体育会系推奨)での活動も、ほとんど必須という状況になっている医学部医学科。運動でへとへとになって、自宅での長時間の勉強に支障が出ないのだろうか?
「医学科は知能面では同年代最強クラスなんだから、ここまで来たら体力面でも最強を目指さないと!」というプライドから来ているのかも知れない。
高校生の人達に大学の部活を説明すると、「月曜・金曜といった定期的に集まって17時~19時くらいにかけて活動をしたり、休みの日に集まってみんなでどこかへ出かけたり、訓練をする集団」と考えれば差し支えありません。
4年次の最後に待ち受ける関門「CBT」と「OSCE」
「CBT」
CBT(Computer Based Testing)は、患者を相手にした臨床実習に移る前に、それまでに学んだ「基礎医学」「臨床医学」の理解度を確かめるテストです。
1人につき1台のPCと向き合い、2万問以上ある問題の中からランダムで出題される問題に、マウスやキーボードを使って解答していく、という試験です。
試験問題はランダムで出題されるため、受験生一人一人の問題の構成が異なっています。
CBTの合格率は80%程度で、不合格になった者は留年します。
「OSCE(通称「オスキー」)」
OSCE(Objective Structured Clinical Examination=客観的臨床能力試験)は模擬患者やマネキンを相手にして、「針の縫い方」「聴診器の当て方」といった実技から、患者と適切なコミュニケーションを取れるかといったところがテストされます。
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また、医師としてふさわしい「服装」「言葉遣い」ができているかもテストの範囲です。
CBT対策では、「クエスチョンバンク(※精選された問題を解いて、その周辺知識を身につけるタイプの問題集)」という名称の問題集を解いて覚えるのが医学生の間で伝統となっています。
このクエスチョンバンク全4冊には、合計で3300問前後の問題が含まれています。
この全問題を2~3周解いて覚えることが推奨されているので、これまでに医学生が覚えてきた知識がいかに膨大であるかを如実に物語っていると言えます。
医学部最後の難関「医師国家試験」
医師国家試験の問題の出題範囲は、これまでに学んできた医学の分野全てです。試験は3日続きます。
医師国家試験の合格率は約90%と言われます。一見すると簡単だと思えますが、実はこの数字には裏があり、
- 「基礎医学」と「臨床医学」をしっかり覚えていない者は前の試験のCBTでふるい落とされている(5年次に進級してきていない)ので、
ある程度以上の学力レベルの医学生しか医師国家試験を受験できない - 試験問題の出題範囲はCBT時よりも大幅に増えており、CBTの時よりも医学生の負担はずっと大きくなっている
- 医師国家試験に合格しないことには医師になれないので、受験する医学生達はみんな死にものぐるいで試験対策をするので、必然的に合格率は高くなる
- 医師国家試験の対策勉強と並行して、「臨床実習」「大学側が用意している卒業試験の対策」をやらなければならないので、時間のスケジュールや医学生への心身の負担が過酷を極める
- 私立大学医学科の場合、低レベルの医学生に医師国家試験を受験させて不合格になるとその大学の医師国家試験合格率が低下して評判が悪化するので、
平素の学業成績が悪い者は医師国家試験の受験を大学側に許可されず、受験できない
といった事情があります。
医学部を卒業したら「初期研修医」に
- 研修医をする期間は2年で、この間は「初期研修医」と呼ばれる
- この研修医の期間中に、「外科」「内科」「小児科」といった様々な科で実習をして、自身が将来進みたい科を決定するための参考にする
- 「病棟回診」「カンファレンス(症例検討会)出席」「外来見学」と、やることが多くて非常に忙しい
- 研修医には「当直」をする義務が課せられていて、当直とは、休日や診療時間外に病院に待機して緊急の患者に対応する業務のこと
- 研修医には、少なくとも週に1回は当直することが義務づけられている
- 当直している研修医は、もしも救急患者が運び込まれてきたら、自分で患者へ問診・看護師達へのオーダーを出すなど場を取り仕切らなければならず、責任重大でプレッシャーがキツすぎる。
また、当直する時間帯は病院に待機している医師の数が少ないので、先輩医師の助けを借りることも難しい。
研修医の後はついに一人前の医師として働き始める
- 2年間の研修医を終えた後の研修期間が「後期研修医(もしくは「専攻医」)」と呼ばれる
- 前の2年間の研修医時に各科を体験した経験を活かし、自分が医師として活動する専門分野を後期研修医の期間中に決定する
- 医師としての就職先は、初期研修医時代に研修をさせてもらっていた病院や、出身大学の大学病院医局などが多い
- 後期研修医になってしばらくの間は、若手の下っ端として忙しく働くことが続く
医師に向かない人の特徴
「医学科入試に合格できない人」
実は、医学部入試に合格するまでの勉強量よりも、合格後の医学科での勉強量の方がはるかに多い、という驚異の事実があります。
なので、医学部入試に合格できるかどうかは、その人が医学科でやっていけるかどうかを測る良い目安になります。
合格できず、何年も浪人を続け、やっと合格しても、講義の進行スピードや期末テストの厳しさについていけずに夢破れて強制退学…という、その人が二度と立ち直れなくなるような種類の大ダメージを受ける結末も往々にしてあるので、すんなり入試に合格できないようなら、医学部は諦めた方が良いでしょう。
医師に向いている人は、医学部入試もすんなり合格できるほどポテンシャルが高く、しかもまだまだ実力の伸びしろがある人です。
「大した目的もなく医学科へ来てしまった人」
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学力が最高レベルに高いことが逆にわざわいして、「とりあえず、理系の最高峰は医学部医学科だから」「東大と医学科で迷ったけど、何となく医学科」という人もけっこうな割合でいます。
こういう人は、医学科での勉強は高い実力でこなせても、進路のミスマッチにだんだん苦しみ始めます。
一般人からすれば羨ましい悩みですが、やはり多少なりとも人命救済に興味が無いと医学の道は辛いでしょう。
「体力・精神力が弱い人」
医師の世界は、圧倒的な知識量を求められる知的なイメージとはうらはらに、かなりの体育会系のようです。上司や同僚との飲み会でも、体育会系のノリが顕著になります。
長時間の体力勝負の病院勤務は当たり前ですし、手術や診察で自分の責任において患者の命を預かるというプレッシャーにも耐えなくてはなりません。患者の死や病苦にも毎日向き合わなければなりません。アメリカの「うつ病になりやすい職業」調査で、医師が2位にランクインしています。
心も身体も頑強な人でないと、医師は勤まりません。
「医師のステータスやイメージに憧れているだけの人」
みんなから「先生!」と呼ばれて頭を下げてもらえたり、医者というだけで集団で一目置かれたり、異性にちやほやされたり、年収1000万円以上という高収入に憧れて医師を目指す人は多いようです。実際、医師免許は日本最強の資格の1つです。
たしかにそれらは非常に魅力的ですが、「人の命を救う」という事自体に興味が無いと、医学科での勉強も、医師になった後も続かないようです。興味も無い医療知識を延々と覚え続けるのは、ある意味で地獄でしょう。
医師に向いている人は、人を救ったり、医学の進歩に貢献したい!と心から思っている、聖人的な側面を多かれ少なかれ持っている人です。「俺がみんなを救うんだ!」という良い意味でのプライドを支えに頑張り続けている医師も多いようです。
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